■コラム Si-Folk物語■ by吉田文夫
@メロディオンとの出会い 続編

元々、トラッドで一番魅せられていた楽器と言えばフィドルで、他のジャンルの音楽でもバイオリンへの憧れは強かった。 でも何故か自分で弾こうと思った事は殆どない。はなっから無理だと思いこんでいたのかも知れない。 この旅行ではこのお目当ての楽器フィドル に出くわす機会があまりなくて、アイルランドでもイングランドでも、行く先々でボタン式のアコーディオン (メロディオン)を目にする事が多かった。

ご存知の通り、日本では鍵盤式のアコーディオンが主流なので、この小さくて綺麗(赤が多かった)で、 しかもボタンばかりが並んでいる、ダイアトニック機種の印象は強かった。 ―表題でメロディオンと書いたのは、当時はこういうダイアトニック式(押し引き異音)のアコを、 日本での仲間内では総じてこう呼んでいたから。現在では、現地での習慣になるべく従って、 2列以上の機種は日本でもボタン・アコーディオンとか、ボックスと呼ぶ。ちなみにメロディオンという呼称は、 イングランドではダイアトニック・アコ全般に通じる。一方アイルランドでは、1列の機種だけに使われている。

子供の頃にほんの少しオルガンを習っていた事や、小学校の器楽演奏の時に、アコーディオン(ピアノ式) を弾いている子が羨ましかった事、そして弦楽器のように調弦する必要がない事なども、この楽器に惹かれた理由だと思う。
そして、この憧れの楽器を購入するのは、先述の初めての旅行から2年後、二度目にアイルランドを訪れた時、 ダブリンの老舗楽器店ウォルトンズ(Waltons)での事になる。ドイツのMartiniというメーカーの2列機種で、 日本円にして1万5千円ほど。肩ストラップはなくて、サム・ストラップ(親指だけをベルトに引っ掛けて支える)式の、 シンプルな作りのものだった。今や、手広く世界中に自社製グッズを供給しているウォルトンズ、当時のお店は床が 板製で地味な作りだったが、中にはたくさんの楽器、楽譜等が置かれていた。楽器ではやはり花形のフィドルが多くて、 天井からいっぱいぶらさげられていた。

ここでは上記のボタン・アコに加えて、バウロンも買ってしまい、よそでLPレコード等も購入していたので大荷物になった。 一回目の旅行でもそうだったが、バックパックに加えてそういった荷物も抱えながら、よく旅行を続けていたものだ。 それは、いかに本場と言えども、自分の欲しいレコードや楽器は見つけた時に買っておかなければ、 またそういう機会が簡単にあるとは思えなかったからで、これは実際にもそうだった。荷物になるからまた後で買えばいい、 と考えて手に入れられなかったものもたくさんあった。

この旅行では、その後船でイギリスに渡り、暫くイングランドをまわった後、どうしてもヨーロッパ・アルプスが見たかったので、 船でドーバー海峡を渡り、パリからシャモニを目指すという強行日程だったが、さすがにこのパリの北駅で荷物は預ける事にした。 お陰で荷物が軽くなり、好天にも恵まれてアルプスの景色を満喫できた。パリに戻って駅の荷物預かり場に行き、 預けた荷物がちゃんとあるのを確認した時はほっとした。楽器もそうだったが、当時はたくさん買い込んだLPレコードも、 こういう苦労に値するものだった。ちなみにこの時の一番のお宝はThe Bothy Band/1975。ダブリンのレコード屋で、 店員の兄ちゃんが「これは良いよ」と言って、針を落としてくれた時の事は忘れられない。